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想定内の想定外

白石哲也(癌研究者 脳神経外科専門医)

 ライブドアのフジテレビ買収問題で当時の堀江社長の『想定内』という強気の言葉がニュース番組でもてはやされていたのはもう2年も前の話である。あれから大きく時代は変わり、その当時の登場人物のほとんどはマスコミから姿を消した。それに変わって今テレビをにぎわしているのはSoftbank携帯の宣伝で有名になった『予想外』犬である。

私たちは目から入ってくる情報をそのまま受身で取り入れているのではなく、常にある一定の予想をしながら観察している。そのためにその予想から大きく異なった場合に強い印象を持つ。特に最近は殺伐とした時代を反映してか、残忍な犯行を犯す個人やカルト集団などの想定外のニュースがしばしば世間を騒がしている。ヒトはなぜそこまで極端な行動に走ってしまうことがあるのだろうか?

一見ランダムに動いているように見える経済活動のパターンを物理学的な視点から研究する経済物理学という学問の領域がある。この分野をリードしている世界的な研究者として私の同僚の高安秀樹先生がいる。株価の上昇や下降はランダムに変化するよりももっと長く持続しやすいことが知られている。この現象には自己変調過程といわれる人間の特性が関係していると考えられている。

自己変調過程とは『直近の自分の過去の行動や自分のごく身近な環境の影響で未来の行動が変わる効果』のことをいう。先ほどの株価の例で言えば、株価が小刻みに上昇をしていると、まだ上昇すると判断して「買い」をオーダーし、その結果さらに上昇するようなものである。これが一国の市場全体に及んだ例がバブル期の異常株価であり、またアジア通貨危機が全世界に株価の大暴落を引き起こしたのも同様な例である。

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